さくらんぼコラム

・さくらんぼは自分で実をつけない

たとえば佐藤錦という品種は、高砂など他の品種の花粉をとってきて、佐藤錦のめしべにつけてあげないと実がなりません。佐藤錦の花粉を佐藤錦のめしべにつけても実がならないのです。これを自家不和合性といいます。花粉をつける為に、ミツバチに頼ったり、人工授粉作業をしたりと、さくらんぼの花の咲いている期間は大忙しです。さくらんぼの花って綺麗でしょうね、お花見気分でお仕事できていいわねぇ…とお客様に言われますが、さくらんぼ農家にとって開花期間は戦場です。


 

・さくらんぼはどこでも栽培できるのか? 

山梨県はさくらんぼ栽培の南限地と言われております。さくらんぼは寒い土地の果物なんですね。それはさくらんぼが夏の暑さに弱く、また、一定の冬の寒さにあたらないといけないとされているからです。最近の研究結果によると、開花期間中の高温(25度以上)にも弱く、高温にあたるとめしべが急速に退化してしまうという特性があるようです。さくらんぼは非常にデリケートな果物なのです。

・さくらんぼはたくさん眠る

落葉果樹は秋に葉を落とし、冬の間休眠します。これを休眠期といいますが、ぶどうやももに比べてさくらんぼはこの休眠時間が長いのが特徴です。休眠は気温が7.2度以下で進み、この積算時間を低温積算時間と言います。この時間がぶどうでは400時間、ももでは1000時間をすぎればすっきり目覚めて自発的に休眠を完了しますよということです。しかし、さくらんぼは自発休眠完了が1200~1400時間と長く、やたらと眠ります。数年前の暖冬の年に、暖かくて休眠時間が取れなかった南国の方が、適度に寒くて休眠できた北の県より桜の開花が遅かったということがありましたが、それはこの低温積算時間による自発休眠完了が遅れたからなのです。

ここからも、さくらんぼは北国の作物なのだなと感じます。

・さくらんぼはなぜビニールのハウスの下で栽培されているのか?

「一雨三割」という言葉があります。一回の雨で3割が実割れしてしまい、3回も降れば全滅してしまうという意味です。さくらんぼは雨が当たると実の表面から水分を吸って皮が割れてしまい、そこからカビが発生してしまいます。ですので、雨に当たらないように、ビニールの屋根をかけてその下で栽培されています。また、鳥による食害もひどいので防鳥ネットを張っております。最近はハクビシンやイノシシの被害もあります。屋根の下で網に囲まれて、さくらんぼは箱入り娘のように大切に育つのです。

・佐藤錦について

さくらんぼの代名詞的存在の佐藤錦は1912年から16年かけ品種改良され、ナポレオンと黄玉を交配してできました。名前は交配育成したの佐藤栄助に因んで命名されました。1912年といえば100年前です!100年前の品種がまだまだ現役最高の品種であるなんて他の果物ではあまり見当たりません。佐藤錦のすごさは美味しさもさることながら、まだこの100年前の品種を超える品種が出てこないということにあります。

佐藤錦は他の紅秀峰や高砂に比べて開花が遅く、また、開花期の高温に他の品種よりも弱く、私が感じるに寒い土地が向いている品種のようです。自発休眠完了も1400時間といわれ、高砂よりも長いです。佐藤錦を美味しく、美しく、毎年コンスタントに実をならすことが私の夢のひとつですが、温暖化が・・・

・紅秀峰について

紅秀峰は佐藤錦と天香錦を交配してできた品種で1993年に品種登録されました。比較的若い品種です。大玉で実が固く、酸味が少なく、佐藤錦を超えるのではないか、いやそうでもないか、と言われる品種です。

いやそうでもないか、という部分は、私が思うに、着果過多になってしまう傾向があるからです。どんな果物でもそうですが、実をつけるぎると栄養が分散されて味が薄くて美味しくない実になってしまいます。紅秀峰は摘果をして適正な量をならせることによって美味しいものが収穫できます。ちなみに、我が家でも佐藤錦と紅秀峰のどっちが美味しいかでよく論争になります。

・高砂について

今でこそ純和風な名前ですが、実は1842年にアメリカで育成され、ロックポートビガローという名前をもっていました。1872年に日本へ導入されてから「高砂」という名前になったという帰国子女です。山梨県の主力品種です。佐藤錦より早く収穫ができるということで、さくらんぼ大国の山形県の佐藤錦がどばどばーっと洪水のように出てくる前に市場出荷できることから、早場産地の山梨県で多く栽培されているということなのです。また、7.2度以下の自発休眠完了が1200時間で済むことから温室ハウスに向いている品種でもあります。

佐藤錦や紅秀峰に比べるとやや酸味がありますが、完熟したものは佐藤錦や紅秀峰を超える糖度が出ます。

・さくらんぼの品種って長寿だな~

佐藤錦は100年、高砂に至っては170年!こんな品種の寿命が長い、逆を言うと、新しい品種が出てこない果物は他にありません。私は寡聞にして知らないだけかな。ぶどうにせよ、ももにせよ、すももにせよ、次々と新しい品種が開発されます。特にぶどうは毎年新品種が出てきて、その品種の多さがぶどうの楽しみのひとつとなっています。

それに引き替え、さくらんぼのこの新品種の出ない理由は何なんだ!と考えた私なりの理由があります。私なりなので何の確証もありませんが。

それは、さくらんぼが進化しすぎた果物だからだと思います。自家不和合性がキツイさくらんぼはできた実がすべて親と違う形質を持っています。そうして進化が進んだ果物ゆえに品種の良さのゴールに行き着いてしまっているのかな、と感じます。

ただ、さくらんぼも紅秀峰や最近山梨県でつくられた、富士あかね、など新しい品種が出てきております。大沢農園でもお客様に楽しんでいただく為、いろいろな品種にチャレンジして行きたいと思います。